転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
03.秘書開始
──4月。
私の額の痣は、綺麗に消えた。
それを合図に、私は逸生さんと共に、ある場所にやって来た。
「新入社員の、岬 紗良さん。遂に秘書を雇いました。仲良くしてあげて」
「…岬と申します。よろしくお願いいたします」
デザイナーズオフィス、というのだろうか。九条グループ本社のオフィスはオシャレでだだっ広く、たくさんの従業員が働いていて。
その中のパーテーションで区切られた一角で、私は数人の社員に囲まれながら、深々と頭を下げた。
「逸、やっと秘書雇ってくれたんだな」
専務である逸生さんを“逸”と呼んだ男の人は、安心したような息を吐いた後、私に向かって「こいつの世話、大変だと思うけどよろしくお願いします」と会釈する。
それにつられて私もぺこりと頭を下げれば、逸生さんが私の耳元で口を開いた。
「紗良、こいつは小山。めちゃくちゃ口煩い生意気な奴だから気を付けて」
「おい聞こえてんぞ。てか誰のせいで口煩くなってると思ってんだよ」
「とりあえず紗良の席は小山の隣な。多分細かくて面倒くさいと思うけど、あいつから仕事を引き継いでほしい」
「承知しました」
「逸、無視するだけじゃなくちょこちょこディスってくんのやめろ?」
小山と呼ばれるこの人は、逸生さんとかなり親しいのか、彼の言葉ひとつひとつに反応して突っ込んでくる。
アットホームな雰囲気とは聞いていたけれど。まるで友達と会話しているようなふたりの雰囲気に、思わずキョトンとしてしまう。