転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「他の社員のことも説明したいけど、俺これから行かないといけないとこがあるから。とりあえず小山、岬のこと頼む」
小山さんにそう伝えた逸生さんは、他の社員に視線を移すと「皆も、この子のことよろしく」と微笑みかける。
それを受けた社員達が口々に「はーい」と返事をすれば、逸生さんは「悪いけどちょっと待ってて」と私に耳打ちしたかと思うと、すぐにオフィスから出ていってしまった。
早速ひとり取り残され、呆然と立ち尽くしていると、覗き込むようにして目を合わせてきた小山さんが「そんなかたくならなくて大丈夫だよ」と穏やかに紡いだ。
「さっき逸から紹介されたけど、改めて挨拶するな。俺は小山。一応総務部なんだけど、逸の秘書という名の雑用係」
「雑用…」
「岬さんが来てくれて良かった。あいつのせいで自分の仕事に手が回らなくて困ってたんだ」
とても柔らかい雰囲気の小山さんは、私に説明しながら困ったように笑うと「分からないことがあったら何でも聞いて」と続けた。
彼のお兄さんのような雰囲気に思わず安堵したのは、前の職場の上司と比べてしまったから。逸生さんはこのオフィスにはいい人しかいないと言っていたけれど、あながち間違いじゃないのかもしれない。
そして、そんな小山さんを見て思ったのは、逸生さんは誰に対しても自分のペースに持っていくのが上手いんだろうなってこと。
「ご迷惑をお掛けすると思いますがよろしくお願いいたします」と頭を下げると、小山さんは「あいつの方が迷惑掛けてくると思うから、覚悟しておいた方がいいよ」と笑った。