転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
久々の熱に、呆気なく腰が砕けそうになる。それをすかさず支えた逸生さんは、窓に私を追いやり今度は性急に唇を奪った。
その息苦しさにくぐもった声が漏れる。なんとか応えようと弱々しく彼の首に手を回せば、その直後、突然浮遊感に襲われた。
「えっ、逸生さ…」
「ごめん、ちょっと止まんない」
軽々と私を抱えた彼は、そのまま躊躇なく奥の部屋へ進むと、寝室のドアを器用に開けた。
変わらず存在感を放つキングサイズのベッドを見て、一気に体温が上がる。あの日の夜を思い出し、ぞくりと身体が反応する。まだ何もしていないのに、下腹部が疼いた。
「嫌なら言って。紗良が嫌がることは絶対しないから」
そう紡ぎながら私をそっとベッドに下ろした逸生さんは、ネクタイを緩めながら私を見下ろす。その目は熱を孕んでいるけれど、どこか優しい。
「…嫌なわけ、ないじゃないですか」
「……」
「あの日、身体は満たされたはずなのに心は苦しかった。繋がれば繋がるほど胸が抉られました。でも今日は、全てが満たされるんですよね?そんなの…私も我慢出来ない。今すぐ逸生さんが欲し…っ、」
言い終える前に唇を塞がれた。衣擦れの音が、やけに耳に響いた。
くしゃりと髪を撫でられ、お見合いのために気合いを入れたヘアセットは一瞬で崩れた。新しく買ったワンピースにも、きっと皺がつく。
でも、それでもいい。彼さえそばにいてくれれば、もう何もいらないから。
「──紗良」
無意識にあの時を思い出して、また胸が苦しくなりかけていたけれど。愛しい声で、ハッと我に返った。
「もう絶対、何があっても離れないから。だから、あんな苦しい愛の確かめ方は、もうしない」
あの日、逸生さんを身体に刻めば、その先はひとりでも頑張れると思ってた。でも実際は、彼のいない一秒一秒が苦しくて、あの夜を思い出しては涙を流した。
「…逸生さん、」
名前を呼んで、微笑んでもらえるのがどんなに安心出来ることなのか。この熱に触れられることが、どれほど幸せなことなのか。今ひしひしと感じている。
ひとりのあの苦しさは、一生忘れないと思う。