転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
まだ朝なのに、もう疲れた。
「なんかごめんな」
私の疲れを察したのか、小山さんが眉を下げて謝罪する。
「いえ、私の方こそ愛想がなくてすみません」
「あ、そういえば笑えないんだっけ?逸から何となくは聞いてるよ」
「笑えないというか…なんと言うか」
「まぁ人それぞれだからね。無理に笑わなくても大丈夫。そこは皆分かってくれるはずだから」
彼が理解のある人でよかった。と、安堵したのもつかの間。
デスクの上の資料をかき集めた小山さんは「とりあえずこっちの会議室に入って」と、すぐそばにあるガラス張りの個室に向かって歩き出すから、慌てて後ろに続いた。
そこでふと周りを見渡せば、前の職場と違う雰囲気に思わず目を見張った。
だだっ広いオシャレなデザイナーズオフィスにはたくさんの社員がいて、ひとりひとりが生き生きして見える。この会社は制服もないから、オフィスコーデも華やかだし、先程の百合子さんなどを含め、みんな楽しそうに仕事をしているのが伝わってくる。
以前の職場は空気が重かったせいか、ここがとても輝いて見えた。何だか私、本当に転生したみたいだ。
そんなことを思いながら会議室に入ると、小山さんは向かいの席に座るよう促した。
「皆さん、とても楽しそうですね」
腰を下ろしたと同時、まるで息をするように自然と出た言葉。はっとした私を見て、一瞬キョトンとした小山さんだけど、彼はすぐに目尻を下げると手元の資料をテーブルに置きながら口を開いた。
「うん、会社の雰囲気はいいと思うよ。まぁ俺らの周りはキャラも濃いけど。逸を筆頭にね」
確かに、と頷く私に、小山さんは「でもすぐ慣れるよ」と苦笑する。けれどその笑みはとても穏やかで、何だかんだ彼らを信用しているのが伝わってきた。
「小山さんは専務と親しい仲なのですか?」
ずっと疑問に思っていたことを勢いに任せ尋ねれば、小山さんは「うん、昔っからの付き合いなんだよね」と目を細める。