転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「俺がこの会社にいるのも、あいつのお陰というか、あいつのせいというか…」
「…どういう意味ですか」
「まぁ、お世話係みたいなもん?逸は自由なとこあるから、慣れてる人間じゃないと扱いきれなくて」
何となく、言いたいことは分かる気がする。
あの独特な雰囲気。自然と誘導していく話術。それに加え、ずば抜けたビジュアル。
どこかアンニュイで、飄々としていて。だけどぬくもりを感じる、不思議な人。
「でもこのオフィスの雰囲気がいいのは、多分逸のお陰だよ。役員って結構煙たがれたりするけど、逸は違う。気取ってないし、どんな社員にも思いやりを持っているから、あいつがいると空気が和む」
小山さんって、逸生さんのことをとても信頼しているんだろうな。だって、彼のことを話す小山さんの表情がとても柔らかいから。
「でも社長や副社長は全然違う。ほんとに逸の父と兄なのかなって疑ってしまうくらい、寡黙で無愛想」
「え、そうなんですか」
「うん。このオフィスにも滅多に顔を出さないよ。まぁ真面目なだけなのかもしれないけど。逸はどちらかというと、会長のおじいさんに似てるかな」
この会社に入社したというのに、経営陣が逸生さんの家族ばかりということを初めて知った。まぁ九条グループって言うくらいだし、何となくは想像出来ていたけれど。
どうりで専務にしては若いと思った。だから逸生さんみたいな呑気な人が役職に就くことが出来たのかと、妙に納得してしまった。
てことはあの高級なマンションも、高そうなスーツや時計も、そしてふかふかのベッドも。全て親のコネのお陰なのかと思うと、途端に複雑な気持ちになる。
「まぁ、あいつも色々複雑なんだよね」
けれど、小山さんが意味深な言葉をぽつりと紡いだから。
もしかすると、そういう簡単な問題でもないのかもしれない。