転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
それにしても“複雑”って、どういう意味だろう。
私は逸生さんの秘書であり恋人でもあるのに…彼のこと、本当に何も知らないや。
「小山さん、お恥ずかしい話ですが、私この会社のことをよく分かっていなくて。よろしければ色々と教えていただけませんか」
これから秘書として働くにも関わらず、逸生さんのことだけでなくこの会社のことを何一つ分かっていない自分に深く反省した。
額の痣が消えるまでの数日間、秘書検定の本ばかり読んでいたけれど、もっと九条グループについて調べておくべきだった。
「専務に聞いてみたりはしたんですが、大丈夫って言うだけで何も教えてはくれなくて」
「なるほどね、逸らしいな」
逸生さんと一緒に暮らしてはいるけれど、彼は毎日のように会食の予定が入っていたみたいで、帰宅時間は日付が変わる頃だった。
そのため、私達があの部屋で交わした会話はまだ数えられるほど。
寝る前にベッドの上で「九条グループのことを教えてください」と尋ねたこともある。けれどその時は「知らなくても大丈夫」と流され、すぐに会話は終了してしまった。
仕事で疲れているのか、逸生さんは布団に入るとすぐに眠りについてしまうから、会話どころか未だにキスすらしてなくて。
私達は本当に恋人なのかも、よく分からないままだ。