転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
私の視界にあるのは、高くそびえ立つ立派な電柱。その電柱をぼーっと見上げていたその時「この電柱に強く頭をぶつけたら転生出来るよ」と、もうひとりの自分が耳元で囁いた気がした。
普通に考えて、そんな簡単に転生なんて出来るわけがない。そんなこと考えなくても分かるはずなのに、この時の私は、もしその程度のことで転生出来るのならやってみる価値があるんじゃないか、なんて軽率に思ってしまった。
じりじりと、電柱と距離を詰める。
すぐそばで立ち止まると、空いている方の手でヒンヤリとしたコンクリートを優しく撫でた。
一応周りに人がいないか確認したら、思っていたよりも多くの人が行き交っていた。でも反対に、これだけの人がいるのならわざわざ私に目を向ける人間なんていないだろう。
それならば。と、一息ついた私は、目を瞑ると思いっきり目の前の電柱に額をぶつけた。
────ゴツッ!
「…いっ……」
鈍い音が聞こえたと同時に、脳にまで振動が伝わったんじゃないかというくらいの強い衝撃に襲われた。小さくうめき声を上げた私は、その場にズルズルと座り込む。
なにこれ痛すぎ。なんかもう痛いを通り越して意識飛びかけた。
──え、飛びかけた?
「オネーサン、そこで何してんの」