転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「会社については小山さんが用意してくださった書類で勉強します。ありがとうございます」
「うん。でも気楽にしてればいいからね。あ、質問はいつでも受け付けてるよ」
「…………では、早速ひとつ質問いいですか?」
控えめに声を掛ける私に、小山さんは「うん?」と小首を傾げる。
「…さっきの、専務が“色々複雑”って言っていたのは一体どういう意味で…?」
正直、人のことなんてあまり興味はないけれど。秘書兼恋人になったからには、何となく知っておいた方がいい気がした。
でも本人に聞いても、恐らく適当に流されるから。探るようなことをして申し訳ないと思いつつ「教えてもらえませんか」と続けた私に、小山さんは少し考える仕草を見せた。
「…まぁこれから岬さんも社長や副社長に会うことがあるだろうし。知っておいた方がいいよな…」
自分に言い聞かせるようにぼそりと呟いた小山さんは、さっきまでの柔らかい表情から一変して真剣な面持ちで私を捉えると、身を乗り出して距離を詰めてくる。
「さっき、社長が逸の父親で、副社長が兄って話をしただろ?」
「…はい」
「実はその兄、副社長がさ、昔からずば抜けて頭が良くて、周りからも優秀な兄だって言われ続けてて」
「……」
「九条の息子ってなると、やっぱ跡取り問題とかも出てくるわけで。だからなのか、逸の両親は幼い頃から出来の良い兄ばかりを可愛がってさ…逸、ああ見えて昔はかなり荒れてたんだ」
「…うそ」
「今はさすがに落ち着いて、あんな感じだけど。実は今も、逸は社長や副社長とはあまり仲良くないんだよ」
「…そう、だったんですね」
あの笑顔の裏に、そんな闇があったなんて。
何だか、胸がズキリと痛む。