転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「結構荒れてたんですか?」
「んー、まぁ犯罪に手を染めたりとかはないけど。家に帰らないのは普通だったし、親子の会話は殆どなかったんじゃないかな。今じゃ考えられないけど、昔は目が死んでたっていうか、もっと尖ってたよ」
「…うそ」
「信じられないよな。でも、あいつはただ親に構ってもらいたかっただけなんだよ」
小山さんの話を聞いて、ふと数日前の彼の言葉を思い出した。
“親に愛されて幸せじゃん”
“親は変えられないから、オネーサンは幸せ者だよ”
あの時はただ単に当たり障りのない言葉で私を励ましてくれたのかと思っていたけれど。あれはきっと、彼の本音だったんだ。
逸生さんはあの台詞を紡いだ時、どんな表情をしていたっけ。
恐らくあのいつもと変わらない笑顔を浮かべていたけれど、もしかすると私は、彼にとってとても苦しい話を聞かせてしまったのかもしれない。
「だからなのか、あいつ昔っからおじいちゃんっ子で」
「…会長、ですか?」
「そうそう。疾うに80歳超えてるじいさんなんだけど、いまもめちゃくちゃ元気で、その辺を散歩しまくってるっていう噂」
「それはすごいですね…」
「自由なとこが逸そっくり。もういい歳だからひとりで出掛けるなって周りに言われてるらしいんだけど、人の目を盗んですぐに飛び出すらしい」
そっくりという言葉、妙に納得してしまった。だって私が逸生さんと出会った時も、彼は呑気にゲームアプリをしながら散歩をしていたから。