転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「まぁそんな感じだったからさ、逸がこの会社に入るって聞いた時、かなりビックリしたんだよな。しかもあいつから言い出したらしいから、尚更」
「…そうなんですね」
「だから俺も、逸の監視役?みたいな感じでこの会社に入ることになったんだけど。でも、最初社長は逸が入ることを嫌がったらしいんだ。迷惑しかかけてこなかったくせに、今更何のつもりだって」
「……」
「俺からしたら、逸がそうなったのはそっちにも原因があるだろって思うけど。でも逸はそれに対してもキレることなんかなくて。それで結局、ここで働くために社長と交わした約束が政略結婚らしい。だから不仲でも逸は専務の位置にいるんだよ」
なるほど。逸生さんの父親は、彼を会社の道具にしたわけだ。会社のためだけに入社を認めた。
でも逸生さんはナゼその条件をのんでまで、この会社で働きたいと思ったのだろう。
「最初はヒヤヒヤしたけど、大きく揉めることなく上手くいっているのは、逸が会長と仲がいいからだと思う」
「……」
「まぁ俺もあの親子のこと全て知り尽くしているわけじゃないけど。とりあえず今も逸は社長・副社長とあまり仲が良くないんだ」
一応秘書として把握してて。そう続けた小山さんは、力なく笑った。
初めて会った日、息抜きって言っていたのは、意外にも苦労していたからなのか。
ただの盗撮犯だと勘違いしてしまったこと、今更申し訳なく思えてきちゃった。
「それにしてもあいつ、なんで急に秘書なんか雇うことにしたんだろうな」
「それは恐らく、小山さんが迷惑していたからだと」
「え、俺のため?あの男が?俺のためだけにそんな事するとは思えないけどな」
はは、と声を上げて笑った小山さん。けれど急にはっと何か思い出したような表情をした彼は「そういえばさっき、岬さんのこと名前で呼んでたよな」と怪訝な目を向けてきた。