転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「岬さん、元々逸と知り合いだったの?」
そう続けた小山さんは、探るような視線を向けてくる。その痛いほどの視線から目を逸らせば、彼は「あの逸が女の人を呼び捨てで呼ぶの、結構珍しいんだけど」と矢継ぎ早に紡いだ。
私達が恋人ごっこをしていること、内緒にした方がいいよね。何だかめちゃくちゃ怪しまれているけれど、ここで間違えたらこれからの仕事にも響きそうだし。
「知り合いでもなんでもないです。数日前に会ったばかりで…」
「え、ほんと?そんな感じには見えなかったけど」
「専務は恩人と言いますか…」
「どういうこと?逸に助けられたの?」
「はい、ニートで困っていた私を拾ってくれました」
どちらかと言えば私が人助けをした方だけど、ニートだったのも拾ってもらったのも嘘ではない。
けれど、苦し紛れの言い訳を並べたせいで、余計に怪しまれるんじゃないかと不安になる。しかし小山さんは
「あー、あいつそういうとこあるもんな」
あいつ誰にでも話しかけるし、自由だけど根は優しいから。と、意外にもすぐに納得してくれて、思わず安堵の息を吐いた。
そして彼の反応を見て思ったのは、やっぱり私は助けた側じゃなくて、助けられた側なんだってこと。
彼の訳の分からない提案は、転生を試みた私を保護するためだったのだ。
そりゃそうだよね。あんなモテそうな男が、人生最後の恋人が欲しいからってわざわざ私みたいな愛想のない女を選ばないと思うから。