転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

「どうせあいつのことだから無理言って岬さんを連れて来たんだろ」


小山さんは呆れたように笑うと「ほんと強引な男だからな」と独り言のように呟く。そんな彼に、私は小さく首を横に振った。


確かに強引なところはあった。けれど、最終的に頷いたのは私だ。

彼の強引さも、自由さも。そして少しSっ気があるところも何となく分かった上で決断した。それはきっと、少なからず彼の人間性に惹かれたからだ。


「私、困った人を助けられる人に魅力を感じるんです」


あの日、自ら電柱に頭をぶつけた私に声を掛けてきてくれた逸生さん。恐らく最初は、単純に私を心配して声を掛けてくれたんだと思う。


「父がそういう人なんです。昔から人助けが大好きで、よく通りすがりの老人の荷物を持ってあげたり、日本語しか分からないくせに迷子になっている外国人に声を掛けたり。怪我をした人を家までおんぶで送ったこともあれば、ご近所さんの行方不明のペットを一晩中探したこともあります」

「へぇーそれはいいお父さん」

「昔はよく父と散歩をしていたので、そういう場面をたくさん見てきたんですけど、父の誰にでも優しいところに尊敬していて…そして専務にも、同じようなものを感じました」

「確かにあいつ、そういうとこあるな」


そして私も、そういう人間でありたいと思って生きてきた。だからあの日、逸生さんに“人助け”という言葉を出され、心が揺らいだ。

経験のない秘書という仕事を引き受けたのも、彼のような人のところで働くことに抵抗を感じなかったから。

何となく、自由さの中に優しさが滲み出てる人だったから、私の1年を彼にあげてもいいと思えたのだ。

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