転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


「まぁでも岬さんが来てくれて本当に助かったよ。これからあいつに振り回されると思うけど、俺がなるべくサポートするから。だからあいつに呆れて退職…なんてことは勘弁してな」


そう言って笑う小山さんを見て、罪悪感が芽生えてしまった。

だって私は、恐らく1年後に退職する。

けれど流石に入社早々そんなこと言えるはずもなく、「頑張ります」と返事をすることしか出来なかった。


「…小山さん、専務には何度も言っているんですが、私本当に秘書経験がなくて…まず私に務まるかどうか心配です」

「あーそれなら大丈夫。秘書って言っても、逸のスケジュール管理するくらいだから」

「…え、それだけ?」

「うん、あいつ基本的に会食とかクライアントとの交流を任されてるから。社長や副社長があまり愛想がないからさ、そういうのは逸が適任なんだよな」

「な、なるほど」

「あとはホテルや新幹線とかの手配かな。恐らく岬さんも会食に同行することはあるけど…」

「私も愛想がない人間ですけど、同行して大丈夫ですかね」

「逸がなんとかしてくれるだろ。あいつ、色んな会社の代表から好かれてるし、岬さんは逸の隣に立っていれば大丈夫」


小山さんも逸生さんも、私の不安を余所に「大丈夫」しか言わない。本当にそんな簡単にいくものなのかやっぱり不安は募るけれど、恐らくどれだけ相談しても、これから先も「大丈夫」と言われて終わる気がする。

もうここまできたら、覚悟を決めて突き進むしかないのかも。


「あとは婚約者候補の名前も覚えてもわらなきゃいけないけど、それもさっき渡した資料の中に入っているから、暇な時にでも目を通しておいてね」

「…承知しました」


婚約者候補…か。きっとこれから、この婚約者候補とも顔を合わせることになるんだろうな。


「みんな岬さんを歓迎してるから。改めて、これからよろしく」


歓迎、という言葉は、何だか少しくすぐったかった。かなりキャラが濃い人達に囲まれることになるけど、上手くやれるだろうか。…いや、やるしかないんだ。


これから1年、私にとってもいい思い出になるよう、楽しく過ごせたらいいな。
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