転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


「てか、まずその1度きりの出会いでどうして好きになった?しかもまだその事を覚えてるって、相当だよな」


小山に尋ねられ、煙草を燻らせながら幼い頃の記憶を辿る。

──そう、あれは確か小学校高学年の頃だった。

昔から両親は兄ばかりを可愛がり、俺のことはほぼ放置だった。だから俺は親よりもじいちゃんに懐いてた。そのため、じいちゃんが近所に住んでいたのもあり、よくひとりで会いに行っていた。

そしてあの日も、いつものようにじいちゃん家に向かってたんだ。

その途中、近所の公園を通った時だった。公園の真ん中にある、大きな木。その周りに何故か人だかりが出来ていて、よく見ると木の上に見知らぬ女が登ってた。


あの頃の俺はかなりひねくれていて、じいちゃん以外に信じられる人なんて、小山を含め数人しかいなくて。目に映るもの全てが敵に見えていた俺は、俺の縄張りで注目を浴びる女にカチンときた。

(たか)ってる奴らを押しのけ、木の真下に立った俺は、未だ木の上にいる女に声を掛ける。


「お前見ない顔だな。ここで勝手に目立ってんじゃねえよ」


今思えば、なんて器の小さい人間だったんだろうって感じだけど。あの時の俺は、九条という名前を掲げればこわいものなんて何もなかった。


「…木に引っかかったフリスビーを取ってたの。今から下りるから、そこをどいてくれる?」


こっちはキレてんのに、それどころかこの俺に向かってどけろとは何様だよ。俺は九条の息子だぞ?と、女の台詞でこの時既に怒りはピーク。

けれどその女は、俺を避けながら軽やかに下りてきたかと思うと、俺に見向きもせずフリスビーの持ち主であろう子供の方へと歩いていく。

その様子を唖然として見ていたら、女は子供にフリスビーを渡すと、俺の存在を思い出したかのように、やっとこちらに振り返った。


「…このクソ…っ」


バカ女。喉まで出かかった言葉を、咄嗟に飲み込んだ。

だって、その女の顔が驚くほど可愛かったから。

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