転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
こんな女、見たことない。こいつ、この辺に住んでるやつじゃねえな。
人だかりが出来てたのは、みんなフリスビーを気にしていたのか。それとも、この女の顔目当てか?
そんな事を考えながら固まっていれば、女は徐々に距離を詰めてくる。そして俺の目の前で足を止めると「気を悪くさせてごめんなさい。困ってる人を見たら放っておけなくて」と、つらつらと言葉を紡いだ。
「……」
近くで見るとより可愛いし、この俺を前にしても物怖じしないしで、思わず言葉を詰まらせていれば、女は表情を変えず「まだ怒ってる?」と首を傾げる。
「…お、怒っては、ねえけど…」
色素の薄い瞳に、透き通るような白い肌。小さな顔に、大きな目。長い黒髪がさらりと揺れて、その冷静な態度を見ていたら、自然と怒りはおさまっていた。
こんなに目を奪われる女に出会ったのは初めてだった。基本的に人を信じられなかったけど、何故かこの女ことは突き放せなかった。
俺の周りの人間は、俺の顔色を伺ったり、機嫌を取ってくるような奴ばっかだけど。でもこの女は、そいつらとはどこか違う。
媚びを売ってくるどころか、俺を突き放しているかのように、冷めた目を向けてくる。
「お前、名前は」
「…ごめんなさい。スカウトの可能性があるから、知らない人に名前は教えたらダメって言われてるの」
なんだコイツ。真顔でとんでもねえこと言うじゃねえか。
これがその辺の女なら、間違いなくブチ切れてる。だけど不思議と不快感はなく、むしろ追いかけたくなるのは何でなんだ。