転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
05.どうして
「九条専務、本日はおめでとうございます」
「ありがとうございます」
隣で綺麗に口角を上げる逸生さんを横目で確認しながら、彼に合わせるように頭を下げる。今日も逸生さんは高そうなスーツを見事に着こなし、会場内でも一際目立っていた。
「…専務、ネクタイが少し曲がってます」
「悪い、直してくれる?」
そっと彼の首もとに手を伸ばし、乱れていたネクタイを整える。ふと視線が絡むと、逸生さんは「大丈夫?疲れてないか?」と耳打ちした。
「大丈夫ですけど、こういう場所に慣れていないので、間違いをおかさないかとヒヤヒヤしています」
「そんな考えなくても大丈夫。紗良は今のところ完璧だから。さ、肩の力抜いて」
今日は九条グループの子会社の周年パーティー。それほど大規模なものではないけれど、ホテルのパーティー会場を借りてのこの会には、取引先のお偉いさん達がたくさん出席していた。
そのため、粗相のないよう常に気を張っていて、正直既に疲労はピークだ。
「専務はさすが慣れてますね」
「そんなことないけど」
いつもと変わらない堂々とした姿。先ほどから誰に対しても完璧な受け答えが出来ていて、そのコミュ力の高さに初めて彼を尊敬した。
先日、逸生さんはクライアントとの交流を任されていると小山さんが言っていたけれど、その理由が分かった気がする。
「普段はユウチューブばっかり見てるのに」
「おい、それは内緒の約束だろ」
彼はすかさずツッコミを入れながらも笑顔を絶やさない。私でさて見惚れてしまいそうになるその笑顔に、周りの女性陣が釘付けになっているのが分かる。
この人、会社では常にユウチューブを見ていて不真面目なのに、一歩外に出るとそういうのを感じさせないから不思議だ。