転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
それにしても、こんなに高いヒールを履いたのはいつぶりだろう。最後にドレスを着たのもいつだったか覚えていない。
この黒を基調としたパーティードレスも、昨日逸生さんが用意してくれた。さすがにお金を払うと言ったけれど、逸生さんは「俺からの入社祝い」と言って、受け取ってはくれなかった。
ただの秘書に、普通こんなプレゼントするものなのかな。まぁお金持ちからしたら、ティッシュをあげたくらいの感覚なのかもしれないけれど。
「九条専務、本日はおめでとうございます」
「二階堂社長、こちらこそ足を運んでいただきありがとうございます。最近バイクには乗ってますか?」
逸生さんの何が凄いって、ここへ来ている人全員の顔も名前も、そして趣味も把握しているってこと。今はバイクの話をしているけれど、さっきは釣りだったし、その前はゴルフの話をしていた。
逸生さんはこうして声をかけられる度、その人に合った話題を出していく。そのため、相手も自然と笑顔になるし、会話が弾む。
彼がこんなにも会話の引き出しが多いなんて知らなかった。どこでこの知識を得ているのだろう。
それに、出会った時も思ったけど逸生さんは聞き上手だ。
この人が昔は荒れていたなんて…正直まだ信じられない。
「あれ、専務。そちらの方は?」
“二階堂社長”の視線が、逸生さんから私に移った。その声にハッとした私は、慌てて「岬と申します」と頭を下げる。
「私の秘書です」
「専務の?秘書がいらっしゃったなんて初耳だ。てっきり婚約者かと…」
婚約者という言葉に、ぴくりと反応してしまったのは私だ。そんな私とは反対に、逸生さんは表情を変えず口を開く。