転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「初めまして秘書さん。九条専務の妻になるかもしれない目黒です」
遂に私に声をかけてきた目黒さん。彼女は恐らく、私をライバル視している。
でも彼女の本当の敵は私ではなく、残りの婚約者候補達だ。正直、そういう目を向けられるのは迷惑でしかない。
「初めまして、秘書の岬と申します。目黒様のことは勿論存じ上げております」
よろしくお願いいたします、と頭を下げれば、目黒さんは何も言わず、私を上から下まで舐め回すように視線を滑らせた。
──この人、本気で逸生さんとの結婚を狙ってる。
そんなにも“九条”が欲しいのかな。それとも、ただ単に逸生さんに惚れてる?
どちらにしても、私は1年後にいなくなるのに。それをこの場で言えたら、どんなに楽だろうか。
「岬さん…あなた無愛想ね」
漸く口を開いたかと思えばさっそく棘のある言葉を投げかけられ「すみません」とすかさず謝罪した。
彼女にとって、恐らくこれは小さな攻撃。けれど今まで散々言われてきた言葉は、今更私の胸には何も刺さらなかった。
すると目黒さんは、淡々としている私が気に食わないのか、分かりやすく眉間に皺を寄せる。
「そんなので九条専務の秘書が務まるの?あなたのせいで彼の印象が悪くなるのは許せな…」
「目黒さん」
彼女の言葉を遮ったのは逸生さんだった。彼はやはり穏やかな口調で「今日は周年パーティーなので、楽しい話をしていただけると助かります」と紡ぐ。
するとやっと私から視線を離した目黒さんは、バツが悪そうに「そうね、私ったらつい」と小さく放った。
いつも動画ばかり見ている不真面目な彼の背中が、今は少し、頼もしく見えた。