転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


「紗良、俺らはそろそろ帰るか」

「え、もう?まだ終わっていないのにいいんですか?」

「うん、早めに帰りたいっていうのは事前に代表には言ってあるし」


いつの間にそんなことを。

確かに今日は子会社のパーティーだから、逸生さんがメインなわけではないけれど。だけどまだ逸生さんと話がしたい人はたくさんいると思うのに。

なのに帰るなんて…もしかして


「…私に気を遣ってますか?」


こういう場所が初めてな上に、先程目黒さんに目をつけられた件で、逸生さんは私を気遣ってくれているのだろうか。

だとしたら嫌だな。それこそ目黒さんの言った通り、私のせいで逸生さんの印象が悪くなる可能性があるし。


「いや、違うよ。俺もたまには家でゆっくりしたいから」


けれど逸生さんは、迷うことなく首を横に振った。

言われてみれば、逸生さんは連日会食や接待で帰りが遅かった。いつもベッドに入るとすぐに眠りについてしまうし、かなり疲れが溜まっているようにも見える。


やっぱり接待って疲れるよね。取引先を相手にするのは、それこそ気を遣うだろうし。

でもその接待も、本当は私も同席した方がいいのではないかと思うけど。逸生さんはいつも、ひとりで大丈夫だと言って出ていく。

やっぱり私が使えないから?愛想のない秘書は同席出来ない?

ダメだな。この仕事は分からないことが多すぎて、全てをマイナスに捉えてしまう。


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