転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「…では運転手に車を回すよう連絡してきますね」
「うん、お願い。俺はその間みんなに挨拶してくるから」
大人しく逸生さんに従うことにした私は、急いでパーティー会場から出ると、ひとけの少ない場所に移動した。
そこでスマホを操作し、運転手の名前を表示させる。そしてそのまま通話ボタンタップしようとした───その時だった。
前方から誰かと会話をしながら歩いて来る見覚えのある人物に、思わず目を見張った。咄嗟に柱の陰に隠れた私は、そこからこっそりとその人物を覗き見る。
心臓がバクバクと音を立てている。久しぶりに見るその顔は、やはりどこか彼に似ている。
息を潜め、その人が見えなくなるのを待ちながら、なぜ彼がここにいるのか考えた。
「…パーティー?」
そうだ、今ここではパーティーが行われている。そこに彼…私の伯父がいるのは、別に変な話ではない。
なぜかと言うと、彼は祖父の会社を継ぎ、今は社長として会社を経営しているからだ。
伯父さんの会社が九条グループと取引があるのかは分からないけれど、九条グループと言えば様々な事業を手掛けているから、何かしら関わりがあってもおかしくはない。
それにしてもびっくりだ。危うく鉢合わせるところだった。
「…バレなくて良かった」
伯父らしき人の姿が見えなくなった途端、一気に力が抜け思わず安堵の息が漏れた。
伯父は目元が父とそっくりだ。私と同じで、色素の薄い瞳。今のは伯父で間違いないと思う。
そんな彼に、私がここにいる事がバレたなくて本当に良かった。だって私、まだお父さんに前の職場を辞めたことも、新しく逸生さんの秘書をしていることも、何も教えていないから。
少し落ち着いたら、ある程度は説明するつもりだけど。急遽あの九条の秘書兼恋人になりましたなんて、しかも一緒に住んでますなんて、あの父に言えるわけがない。
でもその情報が伯父の口から父に入るかと思うと…ゾッとする。
早く帰るよう調整してくれた逸生さんに感謝だ。一刻も早く運転手を呼んで、ここから出なくちゃ。