転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
シンと、一瞬時が止まったかのような静かな時間が流れた。あまりにも唐突だからか、逸生さんがきょとんとしているのが分かる。
まぁ驚くのも無理はないと思う。自分でもこんなにも早く終わりがくるなんて思っていなかったから。
でも恋人というのは元々遊びのようなものだし、秘書というのも、ニートの私に仕事をくれただけ。
逸生さんは何故か私に甘いから、きっと自分からは見捨てない。だったら、迷惑をかける前に私から離れようと思った。
「…急にすみません。入社したばかりで、無責任なことを言っているのは分かってます」
あの日、覚悟を決めたはずだった。この秘書兼恋人という契約を、簡単な気持ちで引き受けたつもりはない。
けれど、いつも動画ばかり見ていた彼が、今日は一段と輝いて見えて。この人は住む世界が違うのだと、改めて気付いた。
九条という会社は私が想像していたよりも大きい。そして逸生さんも、この会社に欠かせない人物なのが見ていて分かる。
私の行動ひとつで彼の評価を下げるのは嫌だ。この数日お世話になったからこそ、ここで身を引きたい。
「小山さんにも申し訳ないと思っています。でも」
「俺の隣にいるのが嫌になった?」
「え?あ、いやそういう訳じゃ…」
「それとも、目黒さんの言葉を気にしてる?」
私の言葉を遮って、探るような目を向けてくる逸生さん。その視線は射抜くように真っ直ぐで、思わず息を呑む。
「…そうじゃなくて、もっといい人がいると思うからです。逸生さんには時間がないので、少しでも早く…」
「紗良の言う“もっといい人”がどんな人なのか分からないけど、俺は紗良がいい」