転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
どうしてこの人は私に拘るの?
“私”がいいと思われるほどの特別なこと、何かしたかな。
逸生さんの寂しげな声音に、胸がぎゅっと締め付けられる。別れを告げるのが、あまりにも唐突すぎただろうか。
「…でも私、逸生さんの何のお役にも立てていないですよ。スケジュールもまだ把握出来ていないし、接待に同席させてもらえないのも、私が無愛想で使えないからですよね?それに夜も、恋人らしいことは全くしていないし、だったら私でなくても…」
「待って、接待は……ごめん。紗良を連れて行かなかった理由は、そういうのじゃないから。紗良を不安にさせてるなら、明日から行かない」
「え?いや、そういう訳にはいかないでしょう。ドタキャンなんてしたらそれこそ…」
「いい。大丈夫。別に会食なんて、あってないようなものだし」
「どういう意味ですか?」
噛み合わない会話に、思わず怪訝な目を向ける。けれど逸生さんは「そんなことより」と話を逸らすと「やっぱり目黒さんの言葉を気にしてんだろ」と真っ直ぐ私を捉えた。
「紗良、別に愛想が全てじゃないよ。無理に笑う必要もない。どちらかと言えば、簡単に人の心を傷付ける彼女のような人を隣に置く方が問題だろ。俺は紗良を見た目だけで選んだわけじゃないし、紗良が使えないと思ったことなんて一度もない」
「……」
「そもそも、役に立たないかどうかを決めるのは俺だから。そして俺は紗良が来てくれて助かってるし、辞められたら困る」
「……」
「だから、今度俺に“辞めたい”って言う時は、そんな理由じゃなくて、俺と一緒にいるのが嫌になった時にして」
「嫌って、そんな…」
「てことで、退職は却下な」