転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
パーティー会場からここに帰ってくるまでの車内で、私なりに一生懸命考えて出した結論を“そんな理由”で片付けた彼は、ふっと柔らかい笑みを零す。
「てか、紗良は優しすぎる」
「え、私がですか?どちらかと言えば逸生さんじゃ…」
「俺の我儘をきいてくれるし、目黒さんにあんな酷い事を言われても怒りもしないし」
「それは…」
「でも紗良、ああいうのは腹を立てていいんだからな。てか俺がブチ切れそうだった」
笑顔で物騒な言葉を放った彼の目は、全く笑っていなかった。私からしたら、あの時逸生さんが庇ってくれただけで十分だった。そして、こうして私の代わりに腹を立ててくれる彼の方が絶対に優しいと思う。
「なぁ紗良、今日のは明らかにあっちが悪いんだから“言われ慣れてる”なんて言葉で片付けるなよ」
「……」
「そんな寂しいこと言うな。紗良はいい女だよ」
初めて会った日から思っていたけど、逸生さんの言葉って、ひとつひとつがあたたかい。さっきまでの漠然とした不安が、一瞬にしてなくなっていく。
とは言っても、秘書には向いていないと思うけど。私、まだ逸生さんとこの関係を続けてもいいのかな。
「逸生さんはどうしてそんなに私を甘やかすんですか」
「え?」
「自ら電柱に頭をぶつける変な女なのに、面白いからっていう理由だけでここまでしてくれるのはどうしてなのかなって」
「…だって、俺には紗良しかいないから」
「え…?」
「紗良以外考えられないから」
紗良がそばにいてくれるなら何だってする。
小さく紡がれたのは、まるで愛の告白のような言葉だった。