転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「…逸生さんって、ほんと変わってますよね」
「転生しようとしたお前が言う?」
逸生さんが珍しく恋人のような台詞を吐くから、なんだかくすぐったくて危うく笑いそうになった。
お金持ちのイケメンは、今みたいなキザな台詞は言い慣れているのかな。でも、こんな得体の知れない女にも言ってしまう逸生さんは、ちょっとネジが飛んでるのかも。
それに、これだけ甘い台詞を吐いてもやっぱり私に指1本触れてこない。パーティー会場で腰を抱いてきたのが嘘みたいだ。
結局、彼が私に拘る理由はよく分からないままだけど。でも、逸生さんがくれた言葉のお陰で、すっかり心が軽くなった。
「逸生さん、今日は私のこと庇ってくれてありがとうございました。素直に嬉しかったです」
このドレスも大事にしますね。と、無表情ではあるけれど精一杯感謝の気持ちを伝えれば、「うん」と頷いた彼は優しく目を細めた。
「でも助けられてばかりは嫌なので、私も逸生さんを支えられるよう頑張ります。さっきは軽率に辞めたいだなんて言ってすみませんでした。改めてよろしくお願いいたします」
そう言って頭を下げると、さらりと肩から落ちた私の髪を、逸生さんは指先でそっと掬う。
「…もう十分支えられてるけどな」
「…え?何か言いました?」
私の髪を指先に絡めて遊ぶ彼は、その手元に視線を落としたままぽつりと呟く。その声があまりにも小さくて咄嗟に聞き返せば、髪から指を離した逸生さんは「何でもない。こちらこそよろしく」と、ふわりと笑った。