転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
06.少しだけ
「ねぇ岬さん、昨日のパーティーどうだった?」
次の日の朝、パソコンと向き合い逸生さんに頼まれた書類を作成していれば、古布鳥さんが後ろから覗き込むようにして声をかけてきた。
「どうだったとは…?」
「パーティードレスで行ったんでしょ?写真は撮ってないの?」
「撮ってないですよ。そもそも写真は苦手なので。専務に盗撮されそうになりましたけど、寸のところで阻止しました」
「あら、専務ったら…使えないわね」
「え?」
「あ、いえこっちの話」
お局さんといえば、私の中では意地が悪く上司でさえ逆らえないオーラを纏っているイメージだったけど。
古布鳥さんはその反対で、のんびりたした口調に、いつも仏のような笑顔を振りまいている。けれどそんな彼女の目が、いま一瞬だけ鋭くなったような気がして、思わず目を見張った。
「岬さんのドレス姿、拝見したかったわ」
「別に今とそんなに変わらないと思いますけど…」
「そんなことないわ。露出度も高くなるし、きっとセクシーよ。想像しただけでムラムラし」
「古布鳥さん」
危うく暴走しかけた彼女をすかさず制したのは、やはりここでは一番まともな小山さんだった。
「仕事中ですよ」と注意する小山さんに、古布鳥さんはにっこりと微笑みながら「ケチね。少しくらい女子トークさせてちょうだいよ」と笑いながら自席に戻る。
「あれ、そういえば逸は?」
思い出したように尋ねてきた小山さんは、辺りをキョロキョロと見渡して逸生さんを探す。いつも逸生さんはイヤホンを付けて静かに動画を見ているからか、小山さんは彼がいないことに今やっと気付いたらしい。
「恐らく社長室です。昨日のパーティーの報告をしてくると仰ってました」
逸生さんは基本、私を社長室に近付けようとはしない。多分、私達が付き合っていることを後ろめたいからだと思う。