転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「機嫌が悪いのかと思えば、急に面白くないダジャレを言ってきたり」
「……」
「ほんと、変わった子でしたね」
変わった子だったけど、あの子の言葉がなければ、私は自分がドMだと気が付かなかったかもしれない。だからなのか、遠い昔の話なのにまだ記憶に残っている。
って言っても、その子の顔は忘れてしまったけれど。恐らく私より年上だった。
そういえばあれはどこだったっけ。確か父に連れられて、家から少し離れた公園に行ったような…。
「なぁ岬さん」
「あ、はい」
「その話、逸にしたことある?」
「え…っと、専務にはまだ」
「こおおおおやああああまあああああ!」
突如オフィスに響き渡った、怒りを孕んだ大きな声。弾かれたように振り返れば、鬼の形相をした逸生さんがこちらに向かってズカズカと歩いてくるのが見えた。
「お前なにサボってんだよ」
「え?サボりって、ちょっと岬さんと話してただけだけど」
「それがサボりって言うんだよ。お前は仕事しろ仕事」
「毎日動画見てるお前に言われたくねえんだが」
「これも立派な仕事なんですー。暇なら俺の仕事全部お前にやろうか?」
「専務、ちょっと静かにしてください」
小山さんに詰め寄る逸生さんに声をかければ、ハッとして私を視界に入れた彼は「こいつにセクハラされてないか?」と、さっきまでとは違い優しい声音で尋ねてくる。
それを見た小山さんが「俺との態度違いすぎるだろ」とボソッと呟けば、再び小山さんを捉えた逸生さんは「お前が女たらしなのがダメなんだろ」とよく分からない怒りをぶつけた。
逸生さん、珍しく機嫌が悪いな。社長に会った後だから、ストレス溜まってんのかな。