転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
ただ、このメンバーの凄いところは百合子さんを責める前に解決策を見つけ出そうとするところ。もしこれが前の職場なら、今頃上司の怒鳴り声が響いていただろう。
前の職場と比べれば比べるほど、ここは恵まれた環境だと感じる。そんな皆のために、私も何か力になりたくて頭をフル回転させた。
「…あの、私が専務と一緒に発注先へ伺って、商品を直接持って帰るというのはどうでしょう。ボールペンなら車に十分積めると思いますし」
躊躇しながらも口を開けば、皆の視線が一斉に此方に向いた。そして百合子さんが「専務と岬ちゃんが…?」と力なく呟く。
「待って、それなら私が…」
「百合子さんは発注先に電話で事情を説明して、その後ボールペンに貼るための社名の入ったシールを作成しておいてください」
「で、でも、発注先までここから3時間はかかるよ。専務に迷惑をかけるわけには…」
「大丈夫です。専務は今日も暇ですし、こういうのは上の人間が動いた方がスムーズにいく可能性が高いです」
「おい誰が暇だよ」
じろりと睨んでくる彼に「専務、お願いします」と頭を下げる。
「…確かに、その方法なら余裕で間に合いそうだな。社名がシールになっても、リーダーも文句は言わないだろ。俺がシール要員も集めておくよ」
小山さんの言葉を聞いて、無礼を承知で「私と一緒に来てください」と懇願すれば、逸生さんは数秒黙った後、はぁと小さく息を吐いた。
「紗良には勝てる気がしないな」
溜息混じりに放たれた言葉。それは恐らくOKのサインで、勢いよく顔を上げて逸生さんを捉えれば「いいよ、行こう」と、困ったように笑う彼と視線が重なった。