転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
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思っていたのと違った。これでは本当にただのドライブデートだ。
「専務、運転は私がするのでは…」
「初デートで女に運転させるわけないだろ」
「…そういうものなのですね」
運転席に乗ったのは何故か逸生さんの方だった。これから長距離運転が始まるというのに、これでは逸生さんに罰を与えているようなものだ。言い出しっぺは私なのに、隣に座っているのが申し訳なく思ってしまう。
さすがに帰りは私が運転しようと思ったけれど、荷物がたくさん詰めるようにと逸生さんが外車のSUVを選んだため、ペーパードライバーの私が扱える訳もなく。
逸生さんに何から何まで迷惑をかけてしまい、気持ちが落ち着かなかった。
「専務、勝手なことしてすみませんでした。しかも運転までさせてしまって…」
困っている人を見ると、どうしても助けたくなるのは父の影響。だけど、入社して間もない私が仕切ってしまったことを、今更後悔している。
しかも専務である逸生さんを使うなんて、普通なら有り得ない話だ。
「いや、むしろ案を出してくれて助かった。変わった人が多いけど、普段は仕事も早いしミスも少ない。ああいう場面に出くわすことってあまりないから、みんなテンパってたし」
冷静な紗良がいてくれて良かったよ。逸生さんが優しく紡ぐから、胸がじんと熱くなる。俯き気味に「ありがとうございます」と零せば、「こちらこそ」と逸生さんの穏やかな声音が耳に届いた。