転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
つい先程百合子さんから連絡が入り、直接工場に向かえば商品は用意出来るとのことだった。その言葉に安堵しつつ、最後まで気を抜けない状況に思わず溜息が漏れる。
「…新人なのにでしゃばってしまいました。皆さん、気を悪くされていたらどうしよう」
「大丈夫、そんな奴らじゃないよ。絶対紗良には感謝してる。昨日は辞めるなんて言ってたけど、引き止めた俺は天才だな」
そう言って声を出して笑う逸生さんを見て、釣られて笑いそうになった。
やっぱり逸生さんの言葉はあたたかい。いとも簡単に安心させてくれるから不思議だ。
「専務は凄いですね。みんなに好かれる理由が分かります」
無意識に零れた本音に、ハッとした。恐る恐る横目で逸生さんを確認すれば、車は信号待ちで停車していたため、彼の視線はがっつり此方に向いていた。
「紗良も?」
「え…?」
「紗良も俺のこと好き?」
いつも余裕のある彼の瞳が、微かに揺れた。
「…勿論です。まだ知り合って間もないですけど、専務のことは人として尊敬しています」
照れくささを感じながらも、素直な気持ちを伝えた。
逸生さんだけじゃない。あのオフィスのメンバーも人として好きだ。私はこの会社に、居心地の良さを感じている。
「…人として、ね」
「え?」
「いや、いつも紗良のこと強引に振り回してるから。でも、嫌われてないなら安心した」
信号が青に変わり、視線を前に移した彼の横顔を見つめる。
その強引さに、いつもぞくぞくしてます…なんて、言えなかった。