転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
その後近くの洋菓子店に寄り菓子折りを買った私達は、高速道路に乗り工場へ急いだ。逸生さんは運転に集中しているのか、いつもより口数が少ない。
そんな中、逸生さんが“ドライブデート”なんて言ったせいか、変に意識してしまう自分がいた。
普段から一緒にいるのに、何だか照れくさい。けれど、そんな私とは反対に、逸生さんはいつもと変わらない様子で前を見つめている。
「…逸生さん」
控えめに名前を呼べば、彼は視線を前に向けたまま「ん?」と目を細める。
「こんなこと聞いていいのか分かりませんが、逸生さんは社長や副社長と仲が悪いのですか?」
彼曰く、これはデート。そんな時にこんな話をするのもどうかと思ったけれど、ずっと気になっていたことを思い切って質問すれば、逸生さんは「あー、小山から何か聞いた?」と歯切れの悪い言葉を返した。
「はい、何となくですけど…」
「…まぁ仲良くはないかな。昔から合わねーのよ」
俺ひねくれてるから、扱いにくいんだろうな。と笑う逸生さんの様子はいつもと変わらないように見えた。
けれど小山さんの話だと、逸生さんはその事でたくさん傷付いてきたはず。今は笑って話せるほど、彼にとっては過去の話になっているのだろうか。
そうだとしても、やっぱり彼の笑顔の裏には色々な苦労があることに間違いなくて。
この人の包容力は、きっとそれを乗り越えてきたからこそのものなのだと思うと、胸が苦しくなった。