転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

「実はその兄…伯父はいま、祖父から引き継いだ会社を経営しているんですけど、父はその会社で働くどころか、祖父母と縁を切るために私の母の家に婿入りしました。なので“岬”は母の姓になります」

「てことは、今もまだ絶縁状態?」

「いえ、それが何年か前に和解したみたいで、今は普通に仲がいいです」


和解した理由は、意外にもあっさりとしていた。

私の父は、会社役員どころか本当に普通のサラリーマン。けれど父は、今の生活がとても幸せだと毎日のように言っていた。

そんな父は昔から人助けが大好きで、そのお陰か周りの人からも愛されていて。勉強は出来なくても、人を惹きつける天才だと私は思っている。

そして祖父母も、そんな父の魅力にやっと気付いたようで、今までの態度について謝ってきたらしい。

それをすぐに許した父は、本当に心から優しい人だと思う。歳をとってお互い丸くなったのも1つの理由かもしれないけれど、いま普通に会話をしている父達を見ていたら、家族の絆って深いなって思う。


「今だから笑って話せるみたいですけど、昔は本当に苦労したみたいです。だから、支えてくれた母のことが父は大好きで、歳をとった今でも2人は仲が良くて。父が私を溺愛するのも、反面教師みたいなもので」

「うん」

「そして私は、自分の力で幸せを手に入れた父を尊敬していて」

「……」

「でも反対に、逃げずに向き合っている逸生さんも素直に凄いと思います。この会社に入るのも、簡単な気持ちでは無理だったと思うから」


私みたいな人間が、逸生さんの気持ちを全部理解するのは難しいかもしれない。

でも、逸生さんと初めて会った日、どうして彼が息抜きにゲームアプリをしていたのか。今ならその理由が、何となく分かる気がする。

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