転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


「キスはあるんだ?まぁそうだよな。うん、そうだよな」

「そうですね。特別な人はいませんでしたが、キスと…まぁ、それなりには」

「へ、へえー」


大学の頃、その日のうちに別れた人以外、彼氏は出来たことがない。特に出会いも求めなかったから、きちんとしたデートもしたことがない。

けれど、実はキスの経験は何度かある。初めてはサークルの先輩だったかな。飲み会のあと、お酒が入っていたのもありなぜかそんな雰囲気になって、なんとなく興味本位でしてしまった。

他の人とは、そのままその後の流れになったこともある。

と言っても、最後まで上手くいったことはないのだけれど。私が冷めているからか相手が萎えて続けられなかったり、変態プレイを求められ逃げたこともあった。

後腐れない人を選ぶのも大変だったため、1年に1回そういう人に出会えたらいい方。なんなら、ここ2、3年はセクハラ上司に悩まされていたため、それどころではなかったし。

でも、そんな適当なことばかりしてきた私は“好きな人と繋がれる幸せ”というものを知らない。その行為に幸せを感じたことなんて勿論ない。

だけど最近、彼氏である逸生さんに、キスどころか抱きしめられたことすらないのが、少し寂しかったりもする。

逸生さんから見たら、私ってそんなに魅力ないのかな。焦らしプレイにしては、お預けが長すぎない?彼のドSレベルが、私の想像を遥かに超えてる。

…まぁ、愛のないカップルってこんなものなんだろうけど。


「ある程度そういうことはしてないと干からびるという話を聞いたことがあったので、それで…」

「………」

「……引きました?」

「…あ、ごめん。意識が飛んでた」

「ちょ、ほんとに大丈夫ですか?次のサービスエリアに寄って休憩しましょう」

「そうするわ。悪いけど煙草吸わせて」


やっぱり逸生さん、だいぶ疲れが溜まってるのか目が死んでる。

過去の話なんてしている場合じゃない。無事に会社まで辿り着けるか心配になってきた。


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