転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
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「ほんっっっとうにありがとうございます!」
なんとか無事に会社に着くと、駐車場で待ち構えていた百合子さんが、涙目で深々と頭を下げた。
「おふたりは私の救世主です。危うくクビになるところでした。何とお礼を申せばよいか」
「百合子さん、まだ仕事は終わってないです。急いでシールを貼らなきゃ」
彼女の背中に手を添えると、百合子さんはゆっくりと顔を上げて「そうだった」と呟く。その声は震えていて、今にも大粒の涙が溢れそうなほど瞳が潤んでいる。
「とりあえず手分けして運びましょう」
「いや、逸と岬さんはいいよ。後は俺らがどうにかするから」
「え、でも」
「シール要員もいっぱい集めておいたし、この調子だとすぐ終わりそうなんだ。それより長時間の移動で疲れただろ。特に逸、お前顔がなんかやばいぞ」
小山さんに声を掛けられた逸生さんは、「まぁ…うん」と力なく呟く。そんな彼に小山さんが「まじで大丈夫か?」と心配そうに尋ねると、それを見ていた百合子さんが「私のせいだあああ」と膝から崩れ落ちるように土下座した。
みんな心配するのも無理はない。逸生さん、実はさっきからずっとこの調子だ。
帰りの車に乗ってすぐの時は、元気そうに見えたのに。やっぱり逸生さんに運転を任せっきりにするんじゃなかったな。
「…専務、お言葉に甘えて今日は自宅に帰られたらどうですか?」
「…そうしようか」
軽く口角を上げた逸生さんだけど、やっぱり目が死んでる。目の奥は笑ってないし、心ここに在らずといった感じで、ぼーっとしてる。
「さすがにもう運転はさせられないので、運転手を呼びますね。私は残るので、専務は一刻も早く帰って休んでください」
スマホを取り出し、皆の輪から離れて電話を掛けようとすれば、私を追いかけるようにすぐ後ろに立った逸生さんは、突然私の手からスマホを奪った。
「えっ、何して」
「紗良、まだ終わってねえよ」
「……え?」
「デート。まだ終わってない」