転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
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「わあ、綺麗…」
皆にお弁当を届けた後、私達が向かった先は、夜景の見える海沿いの公園だった。
「ここは初めて?」
「はい、初めてです。こんなに景色が綺麗なところがあるなんて知りませんでした」
「そっか。初デートだし、本当はもう少しいい所に連れてってあげたかったけど」
「十分です。むしろこういう静かなところが好きなので、連れて来てくださってありがとうございます」
あの後お店でお弁当を受け取った私達は、皆が黙々と作業するオフィスへと一旦戻った。
小山さんがかなりの人数集めていたため、私達が着いた時にはほぼ終わりかけていて。みんなの仕事の早さに、思わず目を見張った。
焼肉弁当をひとくち食べた百合子さんが「今まで食べたお弁当の中で一番美味しい」と号泣すれば、隣にいたイノッチさんが「俺はお前の作った弁当が世界一好きだ」と臭いセリフを放っていたけれど。
こんな時でもこんなめでたい話が出来る会社、なんかいいな。と、思わず口が緩みそうになった自分に、ちょっと驚いた。
「何だか今日は濃い一日でしたけど、とてもいい思い出になりました」
風でなびく髪を押さえながら視線を上げれば、夜景ではなく私を見ていたらしい彼と視線がぶつかる。
「紗良は夜景が好き?」
「そうですね。逸生さんの部屋から見る夜景も気に入ってます」
「だったら、また夜景が綺麗なところ調べておくか」
「…なんか、カップルみたいですね」
カップルだからな。そう言って笑う逸生さんが、何だかいつも以上に綺麗に見えたのは、夜景の効果なのだろうか。
1年後、逸生さんとお別れしても、きっと夜景を見る度この人を思い出すのだろうな…と、ふと思った。