転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
でも、ショックを受けたと同時に他の男に負けたくないという変なプライドも湧いてきた。キスも、他のことも経験済みな紗良だけど、デートは初めてだって言ったし。
てことは、俺は紗良の初めてをもらえたわけで。その初めてをあのまま終わらせるわけにはいかなくて、ここに来た。
女性は夜景を見るとキスがしたくなるって、どこかで聞いたことがある。紗良と付き合い始めて2週間。そろそろ距離を縮めたい。
とか言って、既に心臓バクバクで、このシチュエーションに俺の方が緊張してるけど。
でもこのまま何もせずに1年を過ごすのは、やっぱり嫌だ。少しでいいから紗良に触れたい。紗良と付き合っていたんだっていう証がほしい。
この関係を利用して、自分を甘やかしたいと思うことは、いけないことだろうか。
「紗良」
「はい」
名前を呼べば、色素の薄い綺麗な瞳が俺を捉える。
ずっと思い続けていた女の目に、自分が映っているなんて、未だに信じられない。
「…どうしました?」
首を傾げる紗良は、真っ直ぐに俺を見つめてくる。上目がちの紗良が可愛すぎて、思わず息を呑む。
……やっぱキスすんの無理じゃね?
「…もう少し近付いていい?」
「?…はい、どうぞ」
俺は小学生か。ここに来て退化してどうする。
今だ、キスしろ。と、もうひとりの俺が背中を押している。
「…紗良、寒くないか?」
「風は少し強いですけど、このくらいなら全然平気です」
でも結局何も出来ないのは、距離が近くなればなるほど、自分を苦しめることになるのが分かっているから。