転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
いやでも今しなかったらいつする?ここで出来なかったら、もう一生出来ないんじゃないか?
大丈夫。さっきミントタブレットもたらふく食べたし、煙草臭くはない…はず。
「紗良」
「はい…?」
再び名前を呼べば、紗良は怪訝な目を向けてくる。
その目に怯みそうになりながらも、意を決して口を開いた。
「…あの、」
その時だった。ポケットの中で、突如震えたスマートフォン。静かな空間に、無機質な着信音が響き渡る。
「逸生さん、電話…」
何で今なんだ。
思わず舌打ちしてしまいそうになったのを何とか堪え、スマホを取り出す。そして画面に表示された文字を見て、深いため息が漏れた。
「ちょっとごめん」そう言って通話ボタンをタップする俺に、紗良は「どうぞ」と返し、夜景に視線を戻す。
「…はい」
『逸、お疲れ。少しは回復した?』
「まぁ、うん。そっちはどう?」
回復なんかしてねえよ。むしろ大ダメージだっての。
小山が電話してきた理由は分かってる。恐らくさっきのトラブルの報告だ。
そろそろ掛かってくる頃だろうなとは思ってた。でもちょっと、タイミング悪すぎ。
油断したら悪態をつきそうだったけど、ふと隣で心配そうに俺を見ている紗良が視界に入り、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
『さっき無事に会場まで届けたよ。リーダー、若干イラついてたけどなんとかセーフ』
「そうか。なら良かった」
『百合子さんがずっと「ありがとう」って言いながら号泣してた。ふたりのお陰で助かったわ。弁当も美味でした。ご馳走様』
「小山も色々段取りしてくれただろ。弁当は…今度お前も飯奢れよ」
『何でだよ。まぁとりあえず今日はありがとな。岬さんにもよろしくお伝えください。ゆっくり休めよー』
「ん、了解。お前もお疲れ」
電話を終えると、紗良がすかさず「小山さんですか?」と尋ねてきた。「うん、無事に会場に届けられたって」と伝えると、紗良は「よかった」と安堵の息を漏らした。