転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
紗良の安心した顔を見ると、邪魔をされたことに苛立ってしまった自分が恥ずかしくなった。紗良はきっと、こうしている間も心のどこかで皆のことを心配していたのだろう。
そんなとこ見せられたら、また好きになるんだけど。一緒にいればいるほど惹かれていく。ほんと、どうすりゃいいの。
「紗良、今日はほんとにありがとな」
「いえ、私は何も…」
「俺が半ば無理やり入社させたのに、会社のために必死になってくれて素直に嬉しかった」
「それは、普段皆さんが私に優しく接してくださるので、少しでもお役に立ちたくて…」
なぁ紗良。お前、やっぱあの時の“さら”だよな。
本当はどんな相手でも、困っていたら助けたくなるんだろ?
「でも、逸生さんも本当に優しいですね」
「え、俺?」
「はい。罰って言うから何かと思えばデートだし、それに普通、残業している皆に高級焼肉弁当なんて差し入れしないですよ」
少なくとも、前の職場にはそんな上司はいませんでした。そう紡ぐ紗良の横顔が、少し儚げに見えた。
紗良の過去の話を聞く度に思う。どれだけ周りの人間に恵まれなかったんだろうって。
これだけずば抜けた美人だと、妬まれるのも人間不信になる気持ちも分からなくはない。俺も、九条の人間ってだけで特別扱いされたり妬まれたりと、何かと視線を浴びてきたから。
そんな紗良を、俺が一生隣で支えられたらいいのにって、何度思ったか。