転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
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梅雨の季節になった。
逸生さんが私の頬にキスをしてから、もう1ヶ月半が経過した。仕事はだいぶ慣れてきたけれど、夜になると、私達は再びただの同居人みたいな生活をしている。
あの日、逸生さんがキスをしてくれた時、あのちょっと強引な感じが私のドM部分を刺激したし、ずっとお預けをくらっていたからか素直に嬉しかったのに。
逸生さんはあの日以来、また私に触れようとしない。あのキスをいつも通りの真顔で受け入れてしまったから、私が嫌がったと勘違いしたのだろうか。
それとも逸生さんは、かなりの草食系男子なのかな。
ほんと、掴めない人だ。
「紗良、昨日言った通り俺はこれから私用で出るから」
「はい」
「紗良はついて来なくていいからな」
「はい」
そう言ってオフィスを出ていった逸生さんは、今日は何故だかやけにソワソワしていた。
いつもならのんびりと動画を見て過ごすのに、今日は朝から落ち着かない様子でオフィス内をうろうろしてた。話しかけられても上の空の時があったし、もしかすると体調でも悪いのかな。
それにしても私用ってなんだろう。思えば、私がここへ来てから逸生さんがひとりで外出するのは初めてだ。
いつも当たり前のように隣にいたから、なんだか少し、変な感じ。
「あれ、逸は?」
「先程出ましたよ」
「え、ひとりで?」
「はい。私用と言っていました」
昼休憩から戻ってきた小山さんが、怪訝な顔で「私用…?珍しいな」と零す。
どうやら逸生さんがひとりで出掛けるのは、珍しいことらしい。