転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「専務が昼間にひとりで出掛けることってあまりないんですか?」
「うーん、わざわざ“私用”って言って出ていくのが怪しいんだよな。雑用なら基本俺に押し付けてくるし、本当に私用なら何も言わずに黙って抜け出すタイプだから。もしかして、何か企んでんのかも」
「企んでる…?」
確かに逸生さんなら何も告げずにふらっと出ていきそうだ。でも企むって、一体何を?
まぁ逸生さんの行動は時々読めないから、ここで考えたって答えは出ないと思うけど。
「とりあえず、逸もいないことだし、岬さんものんびり過ごせばいいよ」
小山さんがそう言ってデスクに向かうタイミングで、他のメンバーも続々と戻ってきた。みんな各々で会話を楽しんでいるけれど、逸生さんのいないオフィスは、なんだか静かに感じる。
手持ち無沙汰になった私は、一度パソコンと向き合ってみたけれど。ふとある事を思い付いた私は、隣の席の小山さんに再び声をかけると、彼はスマホに向けていた視線を此方に移した。
「すみません、私も午後からお休みをいただくことって出来ますか」
控えめに尋ねた私に、小山さんは「あ、うん。いいよ」とあっさり返す。
「突然ですみません。実はこの会社に入ったことをまだ親に報告出来ていなくて。久しぶりに帰省して、近状報告をしてこようかと」
「うそ、ずっと親に黙ってたんだ?実家は近いの?」
「はい。電車で1時間ほどなので、そんなに遠くはないです」
「そっか。逸もいないし、今は特に急ぎの仕事もないからいいんじゃない?たまには実家でゆったしておいでよ」
「ありがとうございます」
帰り支度をして、お先に失礼します、とオフィスを出ようとすると、後ろから「岬ちゃん帰るの?!寂しい!」「俺がいるから大丈夫だろ?!」という百合子さんとイノッチさんの会話が聞こえてきたけれど、聞こえないふりをしてオフィスを出た。