新そよ風に乗って 〜時の扉〜
そりゃ、嫌いなわけない。何より上司だし、厳しくもあり優しくもあるけれど、高橋さんの事を嫌いという人はいないんじゃないかと思う。そして、神田さん式に言えばSPI。
明良さんがいう好きというのは、どんなニュアンスなのだろう。勿論、好きだけれど、その好きの種類が違うような気がする。私にとって高橋さんは……。
「陽子ちゃん。何か難しそうな顔してるけど、そんな改まって考え込まなくてもいいのに。貴博が好きなら、素直にね」
「明良さん。違います。高橋さんは、私にとって……」 
「うん、うん。私にとって?」
小声で話しているので、身を乗り出して明良さんが私の声に耳を傾けている。
私にとって……。
ピンポーン。
エッ……。
その時、ちょうどインターホンが鳴った。
「悪い、明良。ちょっと出てくれるか」
キッチンから、高橋さんの声がしている。
「あいよ」
すると、明良さんが立ち上がって歩き出し、勝手知ったる我が家のようにインターホンの受話器のある前に立つと、画面を見た。
「おっ。来た、来た。ヤッホー、今開ける」
だ、誰?
「誰が呼んだ?」
「勿論、俺様明良さんよ」
「週末の静寂さが、どんどん失われていく」
高橋さん?
コーヒーを落としながら、高橋さんがそんなことを呟いている。
他に誰か来るのだったら、片付けなければと思い、席を立ってお皿を手に持つと、明良さんに座るよう腕を引っ張られた。
「陽子ちゃんは、座ってていいよ。別に片付ける必要もない奴だから」
エッ……?
「そ、そうなんですか? でも……」
「いいから」
そうこうしているうちに、玄関前のインターホンがもう一度鳴り、明良さんが玄関の方へと素早く移動した。
誰なんだろう?
「いったい、朝っぱらから何なんだよ。叩き起こされたこっちの身にもなってみろ」
怒ってる?
そんな会話が、玄関の方から聞こえてきた。
「いや−。一大事だからさあ。休みだけど、ご登場願ったわけよ」
「一大事?」
一大事って……。
話し声が段々大きくなって、リビングのドアが開いた。
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