新そよ風に乗って 〜時の扉〜
「今、ご飯食べてたとこなんだけど、食べてきた?」
「ん? まだだけど……って、明良。これは、一大事だな」
何が一大事なんだろうと何気なく見ると、入ってきたその声の主と目が合ってしまった。
だ、誰?
すると、明良さんがキッチンの方に顎を振ったので、入ってきた男性も高橋さんの方をチラッと見たが、すぐに私に視線を合わせた。
「初めまして。星川仁です」
「は、初めまして。矢島陽子です」
星川仁さん。明良さんのお友達? それとも高橋さんの?
「貴博の?」
「あっ、はい。貴博さんと同じ会社で、会計に居ます」
「そうなの。貴博は女の子には優しいから、良かったね」
「あっ、でもまだ仮配属なので、本配属で……また変わるかもしれません」
変わってしまうかもしれないんだ。せっかく高橋さんの部下になれて、仕事頑張ろうと思った矢先、神田さんに言われて初めて知った本配属の件。
「はい」
「す、すみません。運ばなくて。ありがとうございます」
高橋さんがコーヒーの入ったカップ&ソーサーを目の前に置いてくれた。
「ミルクとシュガーは?」
「いえ、このままで」
「陽子ちゃん。おっとな−」
「そ、そんなことないです。牛乳とかミルクが駄目なだけで……」
「そうか。牛乳NGだったんだ」
同じ乳製品でも、不思議とヨーグルトやチーズは平気だったりする。生クリームも問題ない。ただ、牛乳そのものが駄目なようだ。だから加工してあれば大丈夫なんだ。
「仁も飲むか?」
「いいね」
仁さんがそう言うと、高橋さんは恐らくカップを取りに食器棚の方に行きかけた。
「ああ、いい。俺が持ってくる」
「Thank You」
仁さんという人も勝手知ったる我が家のように、高橋さんの食器棚を開けると迷わずカップ&ソーサーを持って戻ってきて、黙って高橋さんの前にそれを置くと、高橋さんもコーヒーメーカーのボトルからコーヒーを注ぐと、仁さんに手渡した。
高橋さんとも知り合いなのかな?
「今日、休みか」
「久しぶりの休み。それなのに明良の電話で叩き起こされた。こいつ、俺のスケジュールまで全部把握してんだよな。怖いよ、オタク入ってていい迷惑だよ」
「右に同じ。勝手に昨日来て、勝手に泊まってる」
勝手にって……。
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