新そよ風に乗って 〜時の扉〜
「だって、せっかく週末休みが合ったんだから、ずっと一緒に居たいじゃない? 貴博ちゃん」
「キモい」
「んまっ。貴博ちゃんったら、キモいだなんて。肝は美味しいのよ。見た目グロだけど」
 明良さんって、こんな人だったの?
「おい、明良。頼むからその厳寒のギャグはやめてくれ。業界人として、聞いてるだけで恥ずかしい」
「何だよ、恥ずかしいって。陽子ちゃん。この二人、酷いだろう? いつも俺を僻んで苛めるんだ」
「誰が、誰を苛めてるんだよ? それより……。明良と陽子ちゃんは、前から知り合い?」
「流石、人間ウオッチが趣味のStar River君。なかなか鋭い洞察力だ」
Star River君?
頷きながら胸の前で腕を組んだ明良さんを見ながら、何のことか考えていた。
あっ……。
プッ!
「イテッ! 何すんだよ、仁」
「いい音。ストライクゾーンだな」
「ああ」
仁さんが、わざと手のひらを広げてバチン!と、明良さんの背中を叩いた音がリビングに響きわたった。しかし、高橋さんはその音に動じることなく、冷静に総評というか仁さんに話しかけていて、仁さんも普通に返事をしている。
何か……。貴博さんと仁さんって、似てる? 明良さんは。ちょっと違う感じだけれど。
「で?」
エッ……。
「そうなの?」
な、何? 何のこと?
「あの、何が……ですか?」
「ああ、明良と前から知り合いだったのかって話。ゴメンね。明良がくだらない会話挟んでくるから」
「あっ、いえ。そんなことないです。私、ボーッとしちゃってて……。すみません」
「俺が研修医でいたことのある病棟に、陽子ちゃんが入院してたんだ」
「そうなの」
「はい」
あの頃、まだ学生で入退院を繰り返してた。ちょうど、オリンピックの年で……。
「そうだったんだ。うるさい研修医だっただろう?」
「い、いえ。そんなことないです」
「ほら見ろ。この明良様は、常に冷静で物静かが取り柄で売りだからな」
「取り柄も売りも、随分落ちたもんだ」
ボソッと隣で高橋さんが呟いた言葉が聞こえ、笑いを堪えるのに必死だった。
「なあに、ボソボソ言ってるんだよ、貴博。コーヒーおかわり」
「あっ、私が」
急いで立ち上がったがそれを高橋さんに制され、高橋さんがコーヒーのおかわりと仁さんのお箸と取り皿を持ってきた。
< 102 / 210 >

この作品をシェア

pagetop