新そよ風に乗って 〜時の扉〜
私が高橋さんの前に立ってみればわかる……か。

月曜の朝は、電車に乗っている人達の顔も、休み明けなのに疲れ切っているように感じられる。何でだろう? 休んだばかりなのに。自分もそうなのかと思い、地下鉄に乗りながら車窓に映る自分の顔をチェックしてみる。
良かった。前に座っているおじさんよりは、疲れた表情になってない。きっと家族サービスで週末は疲れたのかな? 自分の姿を自己採点しながら駅に着き、会社まで歩いていると後ろから肩を叩かれた。
「おはよう、陽子」
「あっ、神田さん。おはようございます」
「そんな堅苦しい言葉遣いやめちゃいな。同期なんだからさ」
「う、うん」
「そうそう、今週末の社内旅行の話、聞いた?」
「社内旅行? えっ? 今週末なの? 嘘! あれって来月じゃなかったの? だって、まだ仮配属……」
「何、寝ぼけたこと言ってんのよ。 来月なわけないじゃない。今週よ、今週。ああ、もうワクワクするわよね。神田まゆみ。キテマスって感じ」
神田さん。どうしたんだろう? やけにノリノリだ。
「もちろん、陽子も行くんでしょう?」
「えっ? あっ、うん」
折原さんに聞かれて、何も考えずに行きますと応えてしまったが、なにやら気合いがいりそうな気配。
「良かった。二人の方が新人でも目立つし、挨拶しながら品定めも出来るってもんよね」
「品定め?」
「そうよ。一応、うちの会社はSPI揃いだっていうから、どんなもんなのか期待大じゃない」
神田さん……。
この人のパワーには、いつも圧倒されてしまう。そして、仕事以外でもすべてのことに対してもパワフルなんだと実感した。
「頑張ろうね」
「えっ? 何を?」
「アンタも、相変わらず鈍子ちゃんだよねえ。男捜しよ、オ・ト・コー」
「か、神田さん。声が大きいですよ」
半ば叫ぶように、空に向かって言った神田さんの腕を思いっきり掴んだ。
「ああ、そっか。ゴメン、ゴメン。だけど、陽子はハイブリッジだもんね。ありゃ、確かにSPIだ。ハイブリッジも旅行行くのかな? 聞いてる?」
「いえ、知らないです」
「もう、陽子はそういうとこ、詰めが甘いんだよ」
そんな、詰めが甘いとか言われても……。
「あっ、エレベーター来てる。乗るよ」
「えっ? あっ、待って神田さん!」
急いで神田さんを追いかけてエレベーターに一緒に飛び乗ると、ちょうど隙間があった右端に飛び乗ったのでそのまま前を向いた。
殆ど、朝は各階停まりのようなエレベーターで、どんどん人が下りていく。会社は25階建てのビルで、経理はその22階にあり、神田さんのいる総務は18階にあるので、殆どの人が降りていき、だんだんエレベーター内が空いてくると、神田さんがいきなり後ろを振り返った。
「高橋さん。おはようございます」
エッ……。
の、乗っていたの? 高橋さん。 
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