新そよ風に乗って 〜時の扉〜
近藤さんが、自信なさそうな声で切り出した。
「何だ?」
こういう時、男同士の会話には入れない。否、入ってはいけない雰囲気だった。
高橋さんは、近藤さんの瞳を捉えて離さず、次の言葉を待っている。表情は穏やかだが、鋭い漆黒の瞳を、高橋さんは近藤さんに向けている。
「こういうことは士気を高める意味でも、やはり一致団結するためにも全員参加が望ましいと思うのですが……」
近藤さんの言っていることは、本当によくわかる。確かに新人一人が参加しなかったことで、士気が高まらないことだってある。
「確かに、近藤の言っていることも一理ある。しかし士気を高めるということは、団結して物事を行うときの意気込みの現れでもあるわけだろう。その時、意気込みのあるものが団結すれば、おのずと周りも付いてくるというものではないか? 元々、社員旅行自体、就労時間内の行事ではない。任意参加であり、従って強制力もない。近藤に矢島さんを強制的に参加させる決定権はないということだ」
淡々と話す高橋さんに対し、近藤さんは少し前に出た。
「高橋さん。そんな、ムキになっておっしゃらなくても……」
近藤さん。
そこまで言われたら、私は……。
「ムキになっているわけではない。社会通念を言ったまでだ」
「あの……」
私の声に高橋さんと近藤さんが同時にこちらを見たので、一瞬引いてしまいそうだったが踏みとどまった。
「私、社内旅行に行くのは、やめます」
「ハッ? 矢島さん。何もやめることないよ。新人はみんな旅行に参加してるし、矢島さんだけ行かないのも……」
「それは、自分の意志か?」
エッ……。
「近藤。席に戻れ」
「でも、まだ話が」
「いいから戻れ」
「はい」
「それと、その有志参加の件、矢島さんはいずれにしても不参加だ。いいな」
「は、はい。失礼します」
有無を言わせず高橋さんは近藤さんにそう告げ、私に向き直ると、右手にしている腕時計を見た。
「矢島さん。朝礼終わったら話がある」
エッ……。
「は、はい」
すると、高橋さんはすぐ会議室の方へと向かい、会議室使用予定表を見て書き込んでいた。きっと会議室の予約をしたのだろう。
だけど、朝礼終わったら話って、何?
さっきエレベーターの中での話とは、まったく趣旨が違うはず。視線も鋭かったし、何か言われるのだろうか。
「矢島さん。朝礼」
「は、はい」
中原さんに言われて、慌てて集合場所へとスケジュール手帳を持って向かった。
そして、朝礼が終わって席に戻ってくると、高橋さんが机の上に手帳を置いてこちらを見た。
「矢島さん。会議室行こうか」
「は、はい」
「中原。ちょっと外すが、すぐ戻る。頼むな」
「はい。わかりました」
会議室の小窓の隣に着いているスライド式表示を使用中にすると、高橋さんはドアを開けて私を先に会議室の中に入れてくれた。
「かけて」
「はい」
いったい、何を言われるんだろう。
もう心臓がドキドキして、緊張からか手足が冷たくなってる。
「何だ?」
こういう時、男同士の会話には入れない。否、入ってはいけない雰囲気だった。
高橋さんは、近藤さんの瞳を捉えて離さず、次の言葉を待っている。表情は穏やかだが、鋭い漆黒の瞳を、高橋さんは近藤さんに向けている。
「こういうことは士気を高める意味でも、やはり一致団結するためにも全員参加が望ましいと思うのですが……」
近藤さんの言っていることは、本当によくわかる。確かに新人一人が参加しなかったことで、士気が高まらないことだってある。
「確かに、近藤の言っていることも一理ある。しかし士気を高めるということは、団結して物事を行うときの意気込みの現れでもあるわけだろう。その時、意気込みのあるものが団結すれば、おのずと周りも付いてくるというものではないか? 元々、社員旅行自体、就労時間内の行事ではない。任意参加であり、従って強制力もない。近藤に矢島さんを強制的に参加させる決定権はないということだ」
淡々と話す高橋さんに対し、近藤さんは少し前に出た。
「高橋さん。そんな、ムキになっておっしゃらなくても……」
近藤さん。
そこまで言われたら、私は……。
「ムキになっているわけではない。社会通念を言ったまでだ」
「あの……」
私の声に高橋さんと近藤さんが同時にこちらを見たので、一瞬引いてしまいそうだったが踏みとどまった。
「私、社内旅行に行くのは、やめます」
「ハッ? 矢島さん。何もやめることないよ。新人はみんな旅行に参加してるし、矢島さんだけ行かないのも……」
「それは、自分の意志か?」
エッ……。
「近藤。席に戻れ」
「でも、まだ話が」
「いいから戻れ」
「はい」
「それと、その有志参加の件、矢島さんはいずれにしても不参加だ。いいな」
「は、はい。失礼します」
有無を言わせず高橋さんは近藤さんにそう告げ、私に向き直ると、右手にしている腕時計を見た。
「矢島さん。朝礼終わったら話がある」
エッ……。
「は、はい」
すると、高橋さんはすぐ会議室の方へと向かい、会議室使用予定表を見て書き込んでいた。きっと会議室の予約をしたのだろう。
だけど、朝礼終わったら話って、何?
さっきエレベーターの中での話とは、まったく趣旨が違うはず。視線も鋭かったし、何か言われるのだろうか。
「矢島さん。朝礼」
「は、はい」
中原さんに言われて、慌てて集合場所へとスケジュール手帳を持って向かった。
そして、朝礼が終わって席に戻ってくると、高橋さんが机の上に手帳を置いてこちらを見た。
「矢島さん。会議室行こうか」
「は、はい」
「中原。ちょっと外すが、すぐ戻る。頼むな」
「はい。わかりました」
会議室の小窓の隣に着いているスライド式表示を使用中にすると、高橋さんはドアを開けて私を先に会議室の中に入れてくれた。
「かけて」
「はい」
いったい、何を言われるんだろう。
もう心臓がドキドキして、緊張からか手足が冷たくなってる。