新そよ風に乗って 〜時の扉〜
空港など滅多に来ないのでキョロキョロしていると、高橋さんに腕を引っ張られてグレーの鉄扉の横に付いている読み込みレコーダーに高橋さんがカードをスリットさせると、解錠された音と共にドアを開けた。
「入って」
「はい」
「恐らく、ここから先を見られるのは会社の人間でもごく一部かもしれない。空港関係者と、本社でも限られた人間。俺は経理だから、入金システム等の関係で問答無用で入れるが、普通は事前の許可が必要になってくる。いわば、空港の中枢とも言える場所だ」
「そ、そうなんですか」
空港の中枢。そんな場所に今、自分が立ち入っていること自体、凄いことなんだ。
「こんにちは」
「お疲れ様です」
キャビン・アテンダントと擦れ違うと、皆、高橋さんに挨拶をしている。きっと空港でも、高橋さんは有名なのかもしれない。
「ここには俺も入れないが、この扉の向こう側には管制室がある。聞いたことがあると思うが、飛行機の離発着の誘導をしているところだ」
「凄いですね」
「そうだな。人の命を預かっている限り、ミスは絶対に許されない仕事だ」
ミスは絶対に許されない仕事……。きっと毎日が緊張の連続なんだろうな。プレッシャーに押しつぶされないのだろうか。大変な仕事だ。
搭乗受付のカウンターを横目で見ながら、一旦、空港を出て少し離れたビルへと向かい、中に入るとそこはガラス張りになっていて、部屋の中で行っている作業が少しだけ垣間見られた。
「ここは機内食を作っているところだ。衛生上、中には入れないが、すべて流れ作業で行われている。ファースト、ビジネス、エコノミー、それぞれの食事を各担当が順番通りに決められた場所に、その調理された食材を並べていく。全部並べ終わった段階で、よく機内で見られるカートにトレーごと積み込み、南京錠とシリコン・ロックのダブル施錠をして機内に積み込まれる」
「南京錠とシリコン・ロックのダブル施錠とは、厳重ですね」
「それは……」
言い掛けた高橋さんの言葉が止まってしまった。どうしたのだろう?
「高橋さん?」
「恐らく、人の口に入るものだから、念には念を入れているのだろう」
「そ、そうですよね」
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