新そよ風に乗って 〜時の扉〜
「第一、格安航空会社の経営破綻もかなり多いじゃないか。今、我が社がこういう状態だというのに、そんなことにまで手を出したら、それこそ経営破綻で共倒れになるんじゃないのか? それとも、それを望んでいるのかね?」
今、発言したあの役員一覧に載っていた人は、常務取締役と名札に書いてあるが、何もそんな言い方しなくてもいいのに。
高橋さん。今、どんな表情をしているのだろう。真後ろからでは、窺い知ることが出来ない。大丈夫なのだろうか。
「確かに経営破綻する会社も出ておりますが、それは増収を見越して無理に路線数を増やした結果が大半です。その結果、価格破壊が起こり、赤字路線を大量に抱えてしまった会社は破綻しているということです。ですが……」
そこまで説明していた高橋さんが、話を中断したので何事かと思って見ると、会議に出席している取締役全員を見渡しているように後ろに居る私には見えた。
「考え方、見方を変えれば、格安航空会社の出現により価格破壊が起こったからこそ、赤字路線を大量に抱えてしまった我が社は危機に陥ったのではないでしょうか」
高橋さんの言葉に、取締役が一斉にざわめきだった。
「ならば、その格安航空会社の経営を取り入れながら、再建の道を歩むこともこれからの時代、必要不可欠ではないかと考えます」
到底、受け入れないといったリアクションをしている取締役が大半を占めている。しかし、トップの3名は少し違った。会長、社長、副社長は、さっき配ったレジメを素早く捲って目を通している。そして、社長が会長に話し掛けると社長が挙手をした。
すると議事進行係の人が、マイクに音量を入れて話し始めた。
「ええ、お静かに願います。社長からお話があるようですので、静粛にお願い致します」
「頭ごなしに否定するだけならば、誰でも出来る。皆、我が社に入社して、現状のような危機が訪れると誰が想像した。その危機に誰が曝したんだね。長年の蓄積もあるが、私達経営陣が無能だったといっても過言ではないと思う」
「お言葉ですが……」
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