新そよ風に乗って 〜時の扉〜
あの人は、社長の話に反論するのだろうか?
「提案があったとして、それが絵に描いた餅では経営は出来ないかと存じます」
「誰が、絵に描いた餅と? 最後まで話も聞かないうちから、誰が出来ないと決めつけたんだ?」
「それは……」
「実るほど、頭を垂れる稲穂かな。皆、謙虚さが足りない。謙虚な姿勢を忘れ、それを補えるほどの発想も手腕もない。他人の意見に耳も傾けないようでは、会社再建への道が遠くなるばかりだ。そんな足を引っ張るだけの取締役は無用。高橋君。レジメの4ページ以降に書いてあることの説明を続けてくれ」
社長は、やっぱり社長なんだ。会社のことを考えて、何が一番会社にとっていいのかを真剣に考えている。高橋さんもそうだ。会社のことを第一に考えている。
「はい。LCCを起業するにあたりまして、当社単体での経営は、先ほどの話にも出ましたとおり、不測の事態に備えまして避けたいと考えます」
「ほう。それは、どこかと提携するということかね?」
副社長が興味津々といった表情で、高橋さんに問い掛けた。
「いえ、提携ではなく、共同出資会社を設立してはどうかと考えております」
共同出資? どこの会社と? まさか、ライバル会社となんてこと……。
先ほどから高橋さんの発する言葉に、驚愕の表情を浮かべている取締役が多い。きっと、思いも寄らないことばかりだからだと思う。私も分からない言葉ばかりだが、それでも何となく雰囲気で突拍子もないというか、此処に居る人達が驚くようなことを高橋さんが言っていることだけはわかった。
「アメリカの航空関連会社との共同出資を考えています」
アメリカ……。
「アジアの企業ではないのか。共同出資での運行となると、何処か路線間の国との出資の方が何かと都合がいいと思うのだが」
「そうですね。その方がお互いの国の航路や離発着時間の役所への届け出云々でも、スムーズに行くはずですから」
社長の問い掛けに、専務が応える形で同調している。
「おっしゃるとおり、それがベストだとは思います。ですが、長い目で見た時に、燃料費のリスクが一番ウエイトを占めてくることは、先般の原油高騰の前例からも明らかです。先行き不透明な円高と、またいずれ燃料が高騰する日が来ることは明白です。燃料不足等という事態も起こりうるかもしれません。そういう意味も含めまして不測の事態に備えた共同出資は、アメリカの企業が最良ではないかと考えます」
「だが、アメリカの航空事業は頭打ちで、改善は見込めないんじゃないのか?」
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