新そよ風に乗って 〜時の扉〜
「いや、それ以前にアメリカの企業と共同出資で起業したとして、どっちの会社がベースになるんだ?」
「そうですよね。こちらから出向していくのか。それともこちらに来て貰うのか」
「共同出資会社の社員は、どうするんだ? 新たに採用するとなると、人件費も嵩む。それも折半のようにするのか?」
矢継ぎ早に出てくる取締役の人達の問い掛けに、高橋さんは黙って耳を傾けている。
「不安材料が多過ぎる。昨日、今日入社したような勤続の浅い社員らしい発想だな。愛社精神の微塵も感じられない」
酷い。
私が言われているのではないのに、取締役の1人の放った言葉が胸に突き刺さった。その言葉に同調している取締役も居て、居たたまれない。耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいだった。
高橋さんが、何故、そこまで言われなくてはならないんだろう。会社のことを考えて、提案しているだけなのに……。何故?
「お言葉ですが……」
エッ……。
高橋さんが、持っていたレジメを机の上に置くと姿勢を正した。
「私は、砂上の楼閣を申し上げているわけではございません」
高橋さん。
「これからお話することは、経理部長に目を通して頂きましたが、経営コンサルタントとして公認会計士の立場からの立案でございます」
そう告げた高橋さんの声は、ハッキリと、そして凛としたものだった。
「続けてくれ」
会長の言葉に、誰も反論する人はいない。
高橋さんは会長に会釈をすると、机の上に置いたレジメを再度手にして説明を再開した。
「まず、何故、アジア路線なのかということですが、日本とアジア間でしたら低消費燃料率の高い中型ジェットで運行出来ます。中型ジェットの場合、やはり短距離、短中距離がベストですし、ポイント・ツゥ・ポイント方式を採用し、沖止め利用で施設使用料を安価に抑えられます」
「ハブ空港は使わないと?」
「はい。施設使用料が嵩みますし、ご承知の通り、ハブ利用ですと空港使用の優先順位が発生してきますので、定時運行が困難になる可能性がございます。航空機の有効活用の点から見ましても、やはり定時運行を顧客に対し印象づけるということも必要だと思います。ハブ利用の便とLCCの便の両方の選択肢があった場合、どちらを選ぶかは顧客の判断になりますが、この時間なら定時運行しているLCCがあったはずと認知されれば、これからの時代、かなり優位に働くのではないかと考えます」
高橋さんの説明に、口を開けたまま聞き入っている取締役も居れば、しきりにメモをとっている取締役も居る。会長、社長、副社長は、時折、メモを取りながら真剣な表情で高橋さんの説明に聞き入っている。
「では、切り詰めるだけ切り詰めて、旅客運賃以外の収益は見込めないということなのか?」
「それでは、先は見えているんじゃないのかね」
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