新そよ風に乗って 〜時の扉〜
高橋さんに投げかけられる質問は、否定的なものばかりだ。けれど、高橋さんはそれらの質問に対して即答している。
「いいえ、旅客運賃以外の収益の一例と致しまして、機内食、手荷物、座席指定の有料化を前提としております。機内食の有料化をすることにより、燃料の削減が出来ます。また、手荷物に関しましては、重量によって何段階かの価格設定を考えています。座席に関しては、全席エコノミークラスのみとし、顧客のニーズに応える形として座席指定は有料とし、座席シート、ヘッドカバー等も含めたスポンサー広告収入を見込む予定です。
「取れるところは、すべて取る方針か……」
誰かが呟くように言った言葉が、何故か会議室に響いた。
「格好付けている場合じゃないということだな。高橋君。それは何年計画のつもりでの起業、並びに就航なのかね?」
「はい。出来れば最短で二年。遅くとも、三年以内の開業を目指したいと思っております」
二年。
もしかしたら、二年後に新しい会社が出来ているかもしれないんだ。まだ設立されるかどうかもわからないけれど、何だか不思議な気分だな。
「しかし、この短期間に開業するとなると、多方面で色々調整が必要になってくると思うが、優先順位もあるだろう。喫緊の課題としては何が一番重要なんだ?」
「はい。LCCを普及させる上での土壌作りが必要になってくるわけですが、共同経営の互換性を最大限に活かしつつ、更に我が社のグループ全体での補完を前提にした体制をそれまでに整えられればと思っております」
「互換性は、使用旅客機の整備云々など保守的なことも踏まえていることはわかるが、補完を前提にした体制づくりとは具体的にどのようなことなのかね?」
段々というか……最初からだけど、話の内容が難しすぎて私の脳内キャパを超えている。高橋さんは、ずっとこういう世界で闘っているのだろうか? 会議というより、これは闘いのように思える。会社経営を、少しでも良くするために……。
「先ほど出ました円高の兼ね合いも含め、今後の日本経済と欧州各国の先行き不透明な経済不安の懸念もございますので、なるべく前倒しの建物改修に関連した修理、修繕等を出来たらと思います。また、業績回復への足掛かりとして、LCC導入に伴うレストランシステムのグループでの仕入れ共通化でのコスト削減を図りたいと考えております。これは共同経営の面から考えましても共通化することにより無駄を省けることで、想定外の支出が発生した場合にも、こういった企業努力で賄えるからです」
「想定外の支出とは、円高で経済が先行き不透明だからかね?」
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