新そよ風に乗って 〜時の扉〜
高橋さんは、矢継ぎ早に問い質されてしまっていた。
「仮に修繕費用を十億円とし、その年に損金として一括計上したとします。しかし、恐らく国税局は改修によって耐用年数が延びたために、耐用年数に応じて複数年に分けて経費として計上する、資本的支出に当たるとして損金とは認めないと思われます。従いまして、それに伴う更正処分は十億円の申告漏れに対し、過少申告加算税を含む、恐らく三億円の追徴課税になると思われます」
三億円の追徴課税だなんて、桁が違う。
「確かに、節税は大切です。それは私も重々承知しており、ギリギリのラインで常に申告しています。国税局と企業の捉え方の相違で追徴課税になってしまうこともしばしばございます。追徴課税されたからといって、必ずしもいわゆる脱税ではなく、人間のやることですから見解の相違であり、この場合は申告漏れに当たります。もちろん、複雑な流れを作って隠蔽しようとすれば、それは悪質な所得隠しに当たり、脱税と捉えられても致し方ありません。この修繕費用を損金として一括計上するということは、明らかな所得隠しに当たりますので、私は会計士の立場からも損金として申告書に記載することは出来ません」
高橋さん……。
「それならば、本社や支店の修繕は後回しにして、空港のカウンターの古くなったお客様が使用する機器の入れ替えなどを最優先したらどうでしょうか?」
「ならん!」
社長の声が会議室に響き渡り、驚いて思わず肩をすぼめてしまった。
「本社ビルの大規模修繕は、多少後回しにしても外壁塗装や修繕は法令の年数を超えなければ体制に影響はないと思うが、社員の福利厚生に関わる修繕は先送りには出来ない」
「しかし、全部が全部、前倒し出来るものではないかと……」
「もちろん、その通りだ。ある程度の線引きは必要になってくる。優先順位としてサービスの向上を目指す、顧客第一主義もわかる。しかし、社員を幸せに出来ない会社は、顧客を満足させられないんじゃないのかね? 社員の満足度が上がってこそ、顧客に対しても余裕を持って接することが出来るというものだ。そこの部分は、一番会社の存続に大切なことだと私は思っている」
社長……。
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